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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)2045号 判決 1965年5月29日

原告 密厳院

被告 山本修三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、東京都荒川区荒川二丁目五九番の六宅地七坪八合九勺のうち、別紙第一図面の朱線をもつて囲む五坪三合八勺を、右土地と同所同番の九宅地とに跨つて存在する家屋番号同町五九番九の二木造スレート葺平家建住宅事務所並作業所一棟建坪二七坪九合五勺のうち、別紙第一図面朱斜線部分建坪二坪四合七勺を収去して明渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

「一、東京都荒川区荒川二丁目五九番の六(昭和三六年一〇月三一日附の町名地番変更前は荒川区三河島町七丁目八二三番五)宅地七坪八合九勺(以下本件土地という)は原告の所有である。

二、しかるところ、被告所有の同所同番の九所在家屋番号同町同番九の二木造スレート葺平家建住宅事務所並作業所一棟建坪二七坪九合五勺(以下本件建物という)のうち、別紙第一図面の朱斜線部分二坪四合七勺(以下係争建物部分という)が本件土地上にはみ出して存在する。そして被告は本件土地のうち係争建物部分を含む別紙第一図面の朱線をもつて囲んだ部分五坪三合八勺(以下係争土地部分という)を占有している。

三、よつて原告は、本件土地所有権に基づいて、被告に対し係争建物部分を収去して係争土地部分の明渡を求めるため本訴に及んだ。」

被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、

「請求原因一および二の事実は認める。」と述べ、抗弁として次のとおり述べた。

「一、被告は、本件建物の敷地である東京都荒川区荒川二丁目五九番の九(町名地番改正前は荒川区三河島町七丁目八一八番)を、訴外松本兼吉から賃借しているものであるが、同人所有の土地と原告所有の土地とは、本件土地附近において互に隣接しており、その境界線は入り乱れて極めて複雑である。ところが、昭和七年よりもずつと前に、右松本所有地と原告所有地との間を貫いて私道が開設され、その結果別紙第二図面のように、右私道をはさんで原告所有土地部分(同図面中赤色部分………大部分本件係争土地部分と合致する)と、松本所有土地部分(同図面中青色部分………三坪七合一勺)とがたがいに飛地となるに至つたものである。しかるに、昭和七年頃までは、右の私道開設によつて飛地が生じたという事実は各土地所有者らによつて意識されることなく、本件係争土地部分は松本(昭和七年頃当時は兼吉の被相続人訴外松本友三郎)所有の土地、別紙第二図面青色土地部分は原告所有土地であると誤認され、おのおのそのように占有使用されて来たものであるところ、昭和七年に至つて、当時の原告代表者訴外星野宥厳および松本友三郎らが本件土地附近を測量した結果前記のように私道をはさんで原告および松本の土地が各飛地となつていることを発見し、右両者間で、たがいに自己の所有地の利用増進をはかるため、従前の使用状況どおり、本件係争土地部分は松本友三郎が、別紙第二図面青色部分は原告が使用するという、いわば交換的使用契約とでもいうべきものが締結され、同時に右両地の面積差に応じた金額を使用料として月々松本から原告に支払うことが合意されたのである。

二、右のような交換使用契約が存在しているからこそ、原告所有土地の賃借人である訴外斎藤軍治は、松本友三郎(現在は松本兼吉)所有の別紙第二図面中の青色部分にまたがつて建物を建築所有し右部分を占有使用しており、原告は松本所有の右青色部分相当の地代を右斎藤軍治から受領しているのである。

三、被告は松本兼吉から本件建物の敷地である前記東京都荒川区荒川二丁目五九番の九および本件係争土地部分を借り受けているのであるから、松本兼吉が本件係争土地部分について、前記交換使用契約に基づいて原告に対して有している使用請求権を代位行使する。」

原告訴訟代理人は、被告の抗弁に対して次のとおり述べた。

「一、被告主張の抗弁一のうち別紙第二図面の青色の部分が松本兼吉の所有地であつてその面積が三坪七合一勺であることは認めるが、その余の事実は否認する。二のうち斎藤軍治が原告から原告所有地を借り受け、松本所有の別紙第二図面中の青色部分にまたがつて建物を建築所有していること、ならびに原告がかつて右斎藤から右松本所有部分の地代をも受領していたことは認める。しかし右の部分の地代をも斎藤から受領したのは、原告が原告所有地内に松本所有の右のような飛地が存することを知らなかつたからであつて、その事情が判明してからは斎藤に対して右部分相当の地代の受領を拒絶する一方、従来の過徴収地代の返還を申し出ている。

二、かりに被告主張のとおり、原告と訴外松本友三郎との間に右飛地交換使用契約が結ばれ、地代差額金の支払がなされた事実があつたとしても、寺院がその所有地を長期間賃貸したり、地上権を設定したり、その所有不動産を処分するについては、住職の独断ではこれをなし得ず、檀徒総代の同意を得たうえで所属宗派の管長、主管者の承認を得ることを有効要件とすることは、宗教法人令・宗教団体法・太政官布告などによつて明らかであるところ、本件において原告は右契約をなすについてその所属宗派たる真言宗豊山派宗務所に対して、その承認申請書を提出した事実なく、したがつて右同意および承認がないから、右契約は無効である。よつて右契約の有効なことを前提とする被告の主張は理由がない。

寺院関係の法令が寺院所有の不動産の処分行為について、寺院の代表者の専行を禁じたゆえんのものは、その処分が寺院のために利益であるか否か、妥当であるか否かを檀徒総代、所属宗派の主管者というそれぞれの機関に審議させるためのものであつて、寺院のために利益な処分行為であるからといつて、右のような同意および承認を欠く行為は無効であると解さなければならない。いわんや、被告主張の交換使用契約は、原告が三坪七合一勺の土地について使用権を得るかわりに、本件土地五坪三合八勺の使用権を喪うというのであるから、原告にとつては損失であり、なおさら無効であると解さなければならないものである。」

原告の右主張に対して、被告訴訟代理人は、「原告が、被告主張の右交換使用契約を締結することは、原告所有の本件不動産を処分する行為にあたらない。なんとなれば、不動産処分行為とは、所有者がその所有権を喪失するか、または、その所有権を制限されてあたかもその所有権の一部を喪失したのと同一視すべき結果を生ずるような行為であるところ、本件においては、原告は本件土地を使用できないかわりに、自己所有土地(斎藤軍治に賃貸している土地)の使用価値を増進させるため、隣接の松本所有の飛地の使用権を得ている関係にあるのであるから、原告はなんら土地所有権喪失しまたはその権利行使の制限を受けているものではないと解すべきであるからである。したがつて、原告によつて檀徒総代の同意および所属宗派の管長・主管者の承認を経ないでなされた右飛地交換使用契約は有効なものというべきである。

かりに、右のような契約を締結することが原告にとつて不動産処分の行為に該当し、前示のような同意および承認を経なかつたとしても、現行宗教法人法第二四条の裏面解釈によつて、現在においてはもはや寺院の境外地たる不動産の処分行為については右のような同意および承認を要せず、代表役員たる住職がこれをなしうるものと解されるところ、本件においては、原告の先々代住職星野宥厳が境外地たる本件土地についてその処分をなしたのであるから、たとえ右処分当時における寺院関係の法令によれば瑕疵ある処分行為であつたとしても、現行宗教法人法の施行によつて右瑕疵は治癒されたものと解すべきである。」と述べた。

証拠<省略>

理由

一、本件土地が原告の所有であること、被告所有の本件建物のうち、係争建物部分が本件土地上にはみ出しており、係争土地部分を被告が占有していることについては当事者間に争がない。

二、そこで、被告主張の抗弁について判断する。

成立に争のない乙第二号証の二同第四号証および同第六号証、証人松本茂信の証言により真正に成立したと認められる乙第二号証の四、証人小原佐市、同星野宥厳、同松本茂信の各証言および被告本人尋問の結果を綜合すると、本件土地が存する東京都荒川区荒川二丁目界隈は旧く田圃も畔道も曲りくねつたまま耕地整理にもならないで宅地転換された結果土地の境界は入組み、昭和三一・二年頃に至るまで地境の不明確なものが数多くあり、原告所有地と訴外亡松本友三郎所有地との境界についてもその例にもれなかつたところ、大正一二年以前にすでに両隣接地の境界附近を貫通して私道が敷かれたため、原告所有地の一部が別紙第二図面におけるように右私道を挾んで右松本友三郎所有地内に入り込み、同様に右松本所有地(町名地番改正前の東京都荒川区三河島町七丁目八一八番)の一部もまた私道を挾んで原告所有地内に入り込むという、いわゆる飛地が生じたものであるところ、訴外星野宥厳は大正一五年頃その先代住職たる同人の父のあとを継いで原告密厳院の住職に就任したが、昭和七年に至り原告所有地を実測した結果前示のような原告および松本友三郎各所有の両飛地があることを発見し、しかも従来から両飛地を相互に交換的に使用し合つてきていたことが判明したので、同年、原告(代表者星野宥厳)と右松本間において、松本は原告に対し松本所有の別紙第二図面中の青色部分三坪七合一勺(面積については争がない)を使用させるかわりに、原告は松本に対し本件係争土地部分を使用させ、右両地の地積差相当の使用料(坪当り月金五銭の割合)を松本が原告に支払う旨約し、右使用料は昭和一一、二年頃まで支払われていた事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると原告、松本間には被告主張のいわゆる飛地交換使用契約なるものが成立したものというべきである。

三、さらに、前掲証拠に証人斎藤軍治、同西村広親の各証言ならびに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると次のような事実を認定することができる。

(1)  前認定の飛地交換使用契約締結後も本件土地は松本友三郎所有土地の賃借人によつて、その所有家屋の敷地の一部として使用され、戦時中は強制疎開により一時空地になつていたが、昭和二一年六月頃には被告がその建物所有のため右松本よりその所有地六〇余坪とともに本件土地を賃借し(ただし、被告はその当時本件土地が原告所有であることは知らなかつた)、両地にまたがる本件建物を建築し、じ後右両地を一体として占有、使用してきた。

(2)  一方松本友三郎所有の別紙第二図面表示の青色部分の飛地は昭和一五年頃訴外斎藤軍治が原告から、隣接の原告所有地とともに建物所有のため賃借し(ただし、斎藤は右別紙第二図面青色部分が松本友三郎の所有であることは知らなかつた)右両地にまたがる建物を建築し、じ後今日に至るまでそのままの状態で右両地を占有・使用してきた。

(3)  原告代表者加藤量晃は、昭和二六年三月に原告寺の住職となつたものであるが、その以前から原告は、前示斎藤軍治に賃貸している土地の賃料として別紙第二図面青色部分(三坪七合一勺)をも含めて計算した金額を受領しており、昭和三三年頃本件土地を南北に通ずる幅八メートルの公道が開設され、そのため原告所有地も道路敷地として東京都に買収され、その結果本件土地が原告の被買収地から分筆されることになつた同年一〇月頃に至つて、加藤量晃は、はじめて本件土地が、原告所有地であつて前記私道ならびに公道をはさんで松本所有地の中に飛地となつて残されていること、また松本の所有である別紙第二図面青色部分が原告所有地の中に飛地となつて存在していることを発見し、昭和三四年一〇月には被告に対して係争建物部分を収去して係争土地部分の明渡を求める本件訴を提起し、斎藤に対しては、別紙第二図面青色部分相当の過受領賃料の返還を申し出るとともに今後のその部分の賃料相当額の受領を拒絶し、斎藤がそれに応じないのでそれを理由として賃貸借契約の解除を通告し、昭和三六年一〇月には斎藤に対してその賃貸地の返還を求める調停の申立をするに至つた。

(4)  松本友三郎は死亡し、訴外松本兼吉が同人を相続したが、前記のように原告代表者加藤量晃が前示両飛地の使用について異議をとなえるまでは、原、被告間においても原告および斎藤軍治と松本友三郎または松本兼吉との間においても右両飛地の使用については何ら異議がなかつた。

右のような事実を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

四、ところで、原告は、前記二で認定したような原告と松本友三郎との間のいわゆる飛地交換使用契約なるものを結ぶことは原告寺にとつてはその所有不動産を処分する行為に該当するところ、その契約の締結については檀徒総代の同意およびその所属する真言宗豊山派の主管者の承認を得ていないから、無効であると主張するのでこれについて判断する。右契約が締結された昭和七年頃その効力を有していた明治六年太政官布告第二四九号は「神社仏寺共古来所伝ノ什物衆庶寄附ノ諸器並ヒニ祠堂金等ノ類ハ神官僧侶ハ勿論氏子檀家ノ者タリトモ自儘ニ処分可致筋無之候条、若不得己儀有之候ハ委詳具状ヲ以テ教部省へ可申立候此旨布告候事」と規定して、神官僧侶はもちろん氏子檀家といえども社寺所有の什物等をほしいままに処分することを禁止し、もしやむを得ない事情のためその処分を必要とする場合には、必ず当該官庁たる教部省に申し出てその認可を受けなければ、その処分をすることができない旨を明らかにし、また当時法令としての性質を有していた明治九年教部省達第三号は「神社仏寺其古来所伝之什物等処分之儀明治六年七月第二四九号公布之趣有之ニ付テハ持添之田畑山林並寄附金又ハ古文書類共総テ右公布ニ照準シ処分可致ハ勿論ニ候条此旨心得相達候事」と規定して、社寺所有の田畑山林等の処分についてもすべて右布告に準拠すべき旨を定めているのであるから、右布告および達に違反する神官僧侶の社寺所有不動産の処分行為は無効であると解すべきである。しかして右社寺所有の不動産とは境外地をも含めた社寺所有のいつさいの不動産を意味するものと解すべきであるから、本件において前示交換使用の目的となつた本件土地ももちろん右社寺所有の不動産に該当するものというべきである。

なお、右布告および達には寺所有の不動産を処分するには、檀徒総代の同意を要する旨定められてはいないけれども、その後の明治一〇年太政官布告第四三号、明治一二年内務省達乙第三九号により寺所有の財産に質権または抵当権を設定するには、檀徒総代の同意および主務官庁の認可を要することが規定されることとなつたため、それとの関連上その他の処分つまり寺院財産の売買、贈与、交換等にも檀徒総代の同意を要するものと解されるに至つた(明治二八年三月一日大審院判決、判例彙報四巻民一八三頁参照。)

これに反して、寺院所属宗派の管長の承認は、当時寺院所有不動産の処分の有効要件ではなかつた。

そこで、当時原告の住職であつた訴外星野宥厳が原告のためになした前示飛地交換使用契約の締結が右布告および達に規定する処分行為に該当するか否かについて判断する。同布告および達にいう処分行為とは、神官僧侶や氏子檀家等の行為により社寺所有の財産の所有権が失われる結果となる行為はもちろん、その財産を相手方または第三者が使用収益することになる結果、社寺の右財産に対する所有権の一部または全部が失われたと同一視されるような状態をきたすべき行為、換言すれば社寺所有財産の保全を害するおそれある行為を指し、その行為が社寺に利益となるか不利益となるかはこれを問わないものと解すべきである。

ところで、前認定の交換使用契約なるものは、その存続期間、差額地代の金額等その内容について必らずしも明確なものではないが、右契約締結後における前認定のような経過、すなわち本件土地は、戦時中一時空地になつていたほかは、被告も含めた松本友三郎所有地の賃借人によつて占有使用されて来たこと、両飛地の地積差相当の使用料が昭和一一、二年頃まで松本から原告に支払われてきたこと、その後住職の交代によつて現住職となつてからは右両飛地の存在することすら意識されていなかつたこと、以上のような事実に、本件契約締結前における前認定のような事情、すなわち、両飛地が存在するようになつたのは大正一二年よりも前であること、星野宥厳が原告住職に就任したのが大正一五年頃であるが、彼自身も右両飛地が存在することには気附かず、昭和七年に測量して始めて分つたこと、右両事実から推認され得る両飛地の所有者らは飛地が存在するようになつてこのかた両飛地を交換的に使用することについて異議がなかつたように見えること、以上のような各事実を綜合考察するときは、右交換使用契約なるものは、両飛地の各所有者が従来から存していた両飛地の交換的使用関係にかんがみて締結したものであるが、それは両飛地の各所有者が、相手方にその土地の返還を請求するときは契約が終了し、各使用者に返還債務が発生するというようなものではなく、各所有者は相手方にその返還を請求し得ないもの、つまり実質的には両飛地の交換契約、すなわち両飛地の所有権を各相手方に移転するが、ただ両飛地に面積の差があるので、その差に応じた金銭を松本友三郎から月月原告に使用料名義で支払うという、売買に類似した一種の無名契約であると解するのを相当とする。そうすると右のような契約を締結することは原告にとつては、本件土地を処分する行為であるといわざるを得ない。そうすると原告が右契約を締結することについて総代の同意ならびに主務官庁の認可を得たとの主張立証のない本件においては、右契約は無効といわざるを得ないことになる。したがつて、松本兼吉は原告に対して本件土地の使用を求める権利を有せず、松本から本件土地を賃借して、松本が原告に対して有する使用権を代位行使せんとする被告の代位権は、これを行使するによしないものであるといわなければならない。

被告は、右交換使用契約の締結が不動産処分行為に該当し、かつ原告寺総代の同意および管長の承認がなかつたとしても、現行宗教法人法の規定によれば、本件土地のような境外地を処分するような行為は代表役員たる住職が右のような同意および承認なく単独でなし得るものであるから、その瑕疵は治癒されたものであると主張するが、右説明のように、総代の同意ならびに主務官庁の認可のあつたことについて被告が主張立証しない本件にあつては、その後宗教法人法が施行されて、右のような同意および認可を要しなくなつたという一事だけでは、過去において無効であつた右交換使用契約が有効となるものではない(昭和三七年七月二〇日最高裁判所判決、集一六巻八号一六三二頁参照)被告の主張は理由がない。

五、しかしながら前記二および三で認定したような事実の存在する本件にあつて、被告に対して、一〇数年にわたつて本件土地上に存在する被告所有の本件建物(建坪二七坪九合五勺)の一部(二坪四合七勺)を収去して僅々五坪三合八勺にすぎない本件係争土地部分の明渡を求める原告の請求は、原告の所有権の濫用であつて許されないものといわなければならない。すなわち、原告の本件係争土地部分の明渡請求は、大正一二年以前から平穏に継続してきた前記両飛地部分の交換的使用関係を覆滅させんとするものであり、原告がその明渡を受けることによつて得られる利益よりも、被告が建物の一部を収去して明渡すことによつて蒙る不利益の方がはるかに大であると認められる。原告が本件係争土地部分の明渡を受けられないことによつて蒙る不利益、損害はおのずから他に補填の方法、たとえば、松本兼吉に前記両飛地の地積差に相当する金員を使用料として請求するというような方法があるであろう。そこで原告の被告に対する本訴請求を理由なしとして棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高林克巳)

別紙 第一図面、第二図面<省略>

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